私が絶望しない理由/河合薫

行く手を断崖絶壁に阻まれた時に人はどう考え、行動するか?
そんな問いかけから本書は始まる。

本書では様々な種類の断崖絶壁を越えて対岸に渡りきった勇気ある9人に対し、インタビュー形式で、断崖絶壁での経験、つまり断崖とはどんなものだったか、断崖に立ったとき、何を思い、どういった行動を起こしたのか、更にはそうした経験が対岸での活動にどう生かされているか等を明らかにしようと試みている。

その勇気ある人々は以下のとおりだ。
・渡邉美樹(ワタミ社長)
たかの友梨
武田双雲書道家
森永卓郎(経済アナリスト)
・大石佳能子(メディヴァ代表取締役
鈴木亜久里
・中村紀子(ポピンズコーポレーション代表取締役
清宮克幸サントリーラグビー部監督)
西室泰三東京証券取引所会長)
そうそうたる面々だ。

それぞれの方々ともに印象的な話ばかりであったが、今回は特に印象に残った「たかの友梨」氏について書いて行きたい。

たかの友梨氏といえば、「たかの友梨ビューティークリニック」の代表として著名だ。
群馬県前橋市の理容店で働きながら、地元の定時制高校を卒業。理容コンンクールで入賞を続け、県内では注目を集めていた。
そして「日本一」目指して上京。ニキビ治療用の化粧水がよく効いたことをきっかけに化粧品会社へ就職、やがてフランスへ乗り込みエステの技術を学ぶ。
帰国後第一号店を出すころ、初めての結婚。しかしビジネスの成功とともに夫の立場が難しくなり、「地獄の特訓」という自己啓発セミナーでの講師の一言をきっかけに離婚を決意。

セミナーの先生に、「あなたには能力があるから世の中のために役立てなきゃいけない」と言われて、突然、気持ちが吹っ切れた。バーンと目の前が開けて「そう私には能力がある。それを生かさなきゃ」ってそれまでのモヤモヤしていた気持ちが吹き飛んだんです。それで家に帰るなり夫に、「申し訳ないけど、私は仕事で生きていきます。こんな私で嫌だったら別れていただいて結構です」って言ったんです。

それからのサクセスストーリーは周知のとおりだ。

たかの氏の子供の頃は、想像できない程の苦労がある。
まう幼稚園の頃に最初の父親が離婚で離れた。ほどなく二番目の父親ができるが、籍がはっきりしていなかったようで、学校へ入学しても座席がなかったこともあった。その二番目の父親も事業での失敗もありほどなく離婚。
母親は旅館で住み込みで働くようになったが、たかの氏は親戚をたらい回しにあう。
母親と再び一緒に住むことを夢見つづけ、ようやく念願かなった時は、何と3人めの父親がいた。

父親には東京に私と同じ年の娘がいて、ことあるごとにその娘と私を比べるの。たとえば、父がわざわざ彼女のテストを私に見せて、「お前は頭が悪い」とか言うんです。ただ、私にいじわるするというよりも、父と私とで母を取り合っていたんでしょうね。しかも父の連れ子は有名な私立の女子高校に通うことになって、どうして相手は高校に行けるのに、私は理容師なんだろうって。納得がいきませんでしたね。

更にはその母親も実は実母ではないという。
このような凄まじい経験を、単なる昔話を語るかのごとく話す たかの氏に表現のしようがない強さを感じた。
これについて著者の和田氏が書いていことも印象的。

悩んだり、苦しんだりしながらも、ちょっとでも前に進んでいく努力を続ければ、苦しみに耐える力が育まれていく。結果や目標ばかりにとらわれ、「目標がないから、夢がないから」と嘆く人がいるが、時には何も考えずに目の前にある自分にできることを見つけ、それに全精力を傾ける。そうすることで苦しみが強さに変わり、新たなチャンスを得るエネルギーが蓄えられるのである。

どんな時にでも、次にやるべきことを見失わず、それに精力的に取り組む。決して逃げたりしない不屈の精神。
本当に重要なメッセージだ。

本書は現代に強く生きる著名人の実話、しかも本人が語っている。
きっと心に響くことが多く、指針にもなりうる内容がちりばめられている。
最近良いこと無いなという方にお薦めの本だ。

私が絶望しない理由―激白。あの有名人9人の土壇場、修羅場、正念場

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