ルポ貧困大国アメリカ/堤未果

かつて多くの日本人にとってアメリカ人の生活は憧れであった。庭付きの一戸建ての家。明るい家族と利口そうな犬。庭は芝がきれいに整い、プールもある。そんな光景をテレビで見ていた。
しかし今のアメリカは、そんな光景は一部の高所得層に限られ、中間層が貧困に転がり落ちているという。

サブプライムローン問題」は単なる金融の話ではなく、過激な市場原理が経済的「弱者」を食いものにした「貧困ビジネス」の一つだ。

まるでかつてのサラ金商工ローン問題の様相か。特に移民を中心とした貧困層は、利率も高く英語もままならずに契約してしまい、返済できなくなると家は無くなり借金は残る最悪のケースだ。まさに束の間の夢。こんなことが現実的にアメリカで起きているという。

そこに浮かび上がってくるのは、国境、人種、宗教、性別、年齢などあらゆるカテゴリーを超えて世界を二極化している格差構造と、それをむしろ糧として回り続けるマーケットの存在、私たちが今まで持っていた、国家単位の世界間を根底からひっくり返さなければ、いつのまにか一方的に呑み込まれていきかねない程の恐ろしい暴走型市場原理システムだ。

教育、生命、暮らしといった政府が国民へ背負うべき義務が次々に民営化されているアメリカ。そしてこれらは市場原理で回されている。
アメリカは日本の何年か先を行っているという。本書にかかれていることが、そのまま当てはまるとすると本当に恐ろしい社会が形成されてしまう。

本書はそんなアメリカの実情を、これでもか、と知らしめてくれる。恐ろしい、本当に恐ろしい世界が、あの憧れのアメリカで起こっているのだ。

まず最初に登場するのは、「貧困が生み出す肥満国民」

国の給食費予算が削減され、経済的に苦しい州は安くてカロリーの高い食事を提供せざるを得ない。マクドナルドやピザハットといった日本でも馴染みの企業と契約する学校も増えているという。
こうして貧しい者ほど、安くて高カロリーの食事を摂取することにより肥満児童が急増している。

「この国の肥満児童増加は、貧困層に対する政府の切り捨て政策の結果なのです」
ジョージブッシュ政権は2007年度、六億五六〇〇万ドルの無料給食援助予算削減を実施、この結果四万人の児童が無料給食プログラムから外された。

これ以外にも、ハリケーンによる避難民を救うはずの政府機関、学校、世界一高い医療と、貧困層を追いつめる政策が次ぎ次に実施されている。
特に医療では、キューバからの移民者が、高い医療費を払えないため病院へ行けず1歳の子どもが死んでしまったが、共産圏のキューバにいれば無料で医療が受けられるのに、との皮肉な結果になっている人もいる。
夢を持ってアメリカに来たはずが本当に皮肉なものだ。

さらに恐ろしいのは貧困層の高校生に対する軍によるリクルート。大学の学費を国防省が負担、兵士用の医療保険に加入等のメリットを全面に出し、高校生の卒業と同時にハンティングする。他に就職口もなく、若者は次々と軍への道を選択する。

しかしその先は決して甘いものではなく、先ほどの学費や医療保険も様々な制約があり100%恩恵を受けられる訳ではない。こんな詐欺まがいが横行しているのだ。だが他になす術もなく現状に甘んじざるを得ないという。

日本もアメリカの後を追うようにしてさまざまなものが民営化され、社会保障費が削減され、ワーキング・プアと呼ばれる人や、生活保護を受けられない者、医療保険を持たない者などが急増し始めた、アメリカで私が取材した高校生たちがかけられたのと同じ勧誘文句で、自衛隊が高校生たちをリクルートしているという話が日本各地から私の元に届き始めたのは最近だが、同時にアメリカ国内では、この流れに気がついた人たちが立ち上がり始めていた。

社会や政治に無関心な人が多い日本。気がついたら酷いことになっていた、ということが無いように、声を上げていかなければならないだろう。

読み終わった後、非常に寒気のする内容であったが、アメリカで起きたことは日本でも繰り返すということは歴史が証明している。しかしそれを避けることはできる。意識をしっかり持って生活していきたい。そう感じた本だ。

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)