脳を活かす勉強法 奇跡の「強化学習」/茂木健一郎


著者の茂木健一郎氏は、1962年生まれ。

埼玉県春日部市の中学を卒業後、東京学芸大学付属高校を経て東大へ進学。現在は脳学者としてテレビや出版でも大活躍をしている。

学芸大付属高校といえば懐かしい思いでがある。

もちろんボンクラの私には進学といった点では遥か雲の上の学校で、全く縁が無いことは言うまでもない、超トップクラスの国内有数の進学校だ。

そんな学芸大付属高校であるが、私の通っていた高校の文化祭で、他の高校の学生からアンケート形式での意識調査のようなものを行い、その結果を掲示したことがあった。

その時に学芸大付属高校も対象先の一つであり、私が実際に学芸大付属高校へ訪問、確か当時の生徒会長さんにアンケートをお願いし、学内を案内してもらった記憶がある。

トップクラスの進学校の生徒だからガリ勉タイプを想像していたのだが、とても爽やかで気さくな素晴らしい学生だったのが印象に残っている。

頭のいい人はやはり何か違うな、と心底感じたものだった。

本書の話とはかなりそれたが、茂木氏が学芸大学付属高校出身と聞いて懐かしい出来事を思い出した。

さてかようにずば抜けて頭の良い茂木氏であるが、最初は取り立てて秀才だったわけでは無いと謙遜している。(学芸大学付属高校の最初の学力テストで77/380位なので、十分秀才だと思うが)

それがその後学年一番になったその訳は「勉強のしかたが分かった」からに尽き、勉強を続けるほど「うれしい」「うれしいから勉強する」というサイクルを繰り返してきたとのことだ。

これを脳学では意味のあることだという。

人間の脳の中は「ある行動をとったあと、脳の中で”報酬”を表す物質が放出されると強化する」という性質を持っているのです。つまり報酬を得て喜びを実感できた行動を再現し、繰り返したくなる。結果、その行動について熟練していくというわけです。
その鍵を握っているのは「ドーパミン」という物質です。

ここでの報酬とは、褒められる、満足する等を指すが、茂木氏の場合は「新しい知識を手に入れる」ということが大きな報酬だったのだ。

それではどのように勉強すれば、脳を喜ばせることができるか。茂木氏は次の三つのしくみを説明する。

(1)「ドーパミン」による「強化学習」によって、脳を強化する。

(2)「タイムプレッシャー」によって、脳の持続力を鍛える。

(3)「集中力」を徹底的に身につける。

難しい問題がとけた時などに、脳の中では「ドーパミン」と呼ばれる物質が分泌されている。

これが脳内に「快感」を生み出す物質で、この分泌量が多いほど、大きな快感、喜びを感じることができる。

ドーパミンが分泌されると、どんな行動をとったか克明に記憶し、ことあるごとに再現しようとする。

快感を生み出す行動が次第にくせになり、二、三回と繰り返すたびに、その行動が上達していく。

これが学習のメカニズムなのだ。

特に、試行錯誤を経ることで脳内に強固なシナプスが形成され、やがて一つの行動に練達していきます。これを「強化学習」といいます。「脳を活かす勉強法」のひとつめの極意は、この「強化学習」のサイクルを回すことにあります。

さらに茂木氏が見て勉強ができない人は、負荷のかけ方を知らないということが多いという。

脳は常に新しい刺激を求めるから、より高いハードルを求めていく。

ハードルが高ければ高いほど、乗り越えたときの喜びも大きいのだが、そのメカニズムを知らないのだ。

おすすめなのが「脳を活かす勉強法」ふたつめの極意、「タイムプレッシャー」です。簡単にいえば、自分の作業に、制限時間をもうけるのです。

また集中力を養うには「『鶴の恩返し』勉強法」を提唱する。なんともユニークなネーミングだが、その意味はこうだ。

なぜ鶴なのか、それは童話『鶴の恩返し』にヒントを得ているからです。
『鶴の恩返し』の物語を思い出してください。自分を助けてくれた人のために、鶴が全身全霊をかけてすばらしい反物を仕上げるシーン。「決して自分が織っているところを見ないでください」というあれです。
その鶴のように勉強するのです。

周りと隔絶し、とにかく集中する環境をむりやり作り全身全霊をかける。

手、耳、目、声、まさに全身を使って覚えていく。その姿は他人には見せられない、他人の目など気にする余裕が無いほど集中している状態なのだ。

「脳を活かす勉強法」みっつめの極意は、この「集中力」です。僕は、集中力は次の三つの要素から生まれると考えています。
(1)速さ;作業のスピードを極限まで速くすること
(2)分量;とにかく圧倒的な作業量をこなすこと
(3)没入感;周囲の雑音かが入らないほど夢中になること

また脳がその気になった瞬間もチャンスとし、中途半端な時間でもパッとやってしまうのも有効な手法とのことだ。
携帯だとかで小刻みに分断されがちな現代の生活に対応しやすい手法なのである。

最後に印象的な話がでている。金持ちはお金を持っているということで尊敬されるかもしれないが、それだけの話。本当の人間の魅力は「知的な魅力」だという。

かつて、古代ギリシャの大哲学者プラトンに、弟子のひとりが質問をしました。
「オリンピック競技の優勝者には賞品が与えられるのに、哲学者には賞品が与えられないのはなぜか」という問いかけでした。
その時プラトンは次のように答えてたと言われています。
「賞品とは、その人の功績と比較して、より価値のあるものでないと意味がない。しかし、知恵を得る以上に価値があるものなど、この世に存在しない。だから知恵を得た人にはあげるべき賞品がないのだ」

古代より学習により知恵を得ることは最も大事なこととされている。現代は知識社会とも言われているが、昔から基本的な部分は変わっていないのだ。

脳を活かす勉強法 奇跡の「強化学習」

脳を活かす勉強法 奇跡の「強化学習」